社員の退職手続きは、貸与品の返却リストに沿って進むのが普通です。パソコン、社員証、鍵、制服。ところが法人カードだけは、そのリストから漏れることがあります。財布に入っていて目に見えないうえ、返してもらったつもりでもETCカードが車の中に残っている、といったことが起こるからです。
この記事では、退職が決まってから退職日までに、法人カードについて何をどの順番で片づけるかを整理します。あわせて、回収できなかった場合にどう動くかも扱います。

前提:そのカードは誰のものか
意外と知られていませんが、クレジットカードそのものの所有権は会社にも本人にもありません。三井住友カードの法人会員規約には、こう書かれています。
「カードの所有権は、当社に属しますので、会員及び使用者が他人にカードを貸与・譲渡・質入・寄託してはならず、また、理由の如何を問わず、カードを他人に使用させ若しくはカード使用のために占有を移転させてはなりません。」(出典:三井住友VISAカード法人会員規約(ビジネスパーチェシング用)第2条/2026年3月改定)
つまり、退職者から回収したカードを別の社員に回して使わせる、という運用はできません。後任者には、あらためて使用者としてカードを発行してもらうのが本来の形です。ここを勘違いしたまま券面を使い回している会社は、規約違反の状態に置かれることになります。
退職が決まったら動く3つの日付
1. 退職が決まった時点でやること
まず、その社員のカードに紐づいている継続的な支払いを洗い出します。担当していた広告アカウント、契約しているクラウドサービス、出張の予約サイトに登録されたカード情報。これらを別のカードへ付け替えないと、カードを止めた瞬間に業務が止まります。
洗い出しの手順は「法人カードでサブスクの支払いを管理する方法|解約漏れとコストの見える化」で扱っています。
2. 最終出社日にやること
物理的なカードの回収は最終出社日が現実的です。ここで回収するのは券面だけではありません。
最終出社日の回収リスト
・カード本体(券面)
・ETCカード(社用車の車載器に挿さったままになっていないか)
・スマートフォンに登録されたモバイル決済の削除
・会員サイトのID・パスワードの引き継ぎ
・立替精算の未処理分と領収書
特に見落とされるのがモバイル決済です。券面を回収しても、スマートフォンに登録された決済手段が生きていれば支払いはできてしまいます。本人の目の前で削除してもらうのが確実です。
回収した券面やETCカードは、届出と処分が終わるまでの間、鍵のかかる手提げ金庫などにまとめて保管しておくと紛失を防げます。
3. 退職日までにやること
カード会社への届出です。三井住友カードの法人会員規約第12条第2項では「使用者が退会をする場合(中略)は、所定の届出用紙により当社の指定する金融機関又は当社に会員から届け出るものとします。この場合、当社が必要と認めた場合には、全カード及びチケット等を当社に返却又は会員番号等を通知した書面は破棄するものとします」とされています。
ここで押さえておきたいのは、届け出るのは退職する本人ではなく会員である法人(カード担当者)だという点です。本人任せにすると、届出が出ないまま在籍扱いの使用者が残ります。

規約から見た、退職者のカードの位置づけ
同じ規約の第13条第4項には、会員資格・使用者資格の取消事由が並んでおり、その第7号にこう書かれています。
「使用者が会員の役員又は従業員でなくなった場合又は会員から使用者資格の取消の申出があった場合(後者の場合において会員は、当社が使用者資格を取り消したことにより生じた使用者との紛争につき、会員の責任と費用で解決するものとし、当社が被った全損害を補償するものとします。)」
読み取れることは2つあります。ひとつは、従業員でなくなった時点で使用者資格の取消事由に当たるということ。もうひとつは、資格取消をめぐって元従業員との間にトラブルが生じた場合、その解決は会社側の責任と費用で行うという整理になっている、ということです。
だからこそ、退職者本人に対して「いつ、どのカードが、なぜ使えなくなるのか」を事前に説明しておく意味があります。突然止めるのではなく、日付を伝えて回収する。これが後々のトラブルを減らします。

回収できなかったときの手順
物を追うより先に、カード会社へ連絡する
連絡がつかない、返却してもらえないまま退職日を迎えた。この場合、券面を追いかけるより先にカード会社へ連絡して、その使用者カードの利用を止める手続きを取ります。本質的な安全は、券面を手元に戻すことではなく、そのカード番号を使えない状態にすることにあります。
連絡先はカードの種類で違う
三井住友カードの場合、法人カードの各種手続きは、コーポレートカードは管理者向けサイト、ビジネスカードはカードご利用者向けサイト、ビジネスオーナーズ・ビジネスカード for OwnersはVpassという形で、カードの種類ごとに窓口が分かれています(出典:三井住友カード 法人カード契約のある方)。急いでいるときほど、窓口違いで時間を失いがちです。
明細を見る期間を決めておく
退職日から数か月は、その使用者番号の利用がないかを明細で確認します。日本クレジット協会も、消費者向けにカードの不正利用への対策をまとめたページを公開しています(出典:一般社団法人日本クレジット協会 クレジットカード不正利用5つの対策)。社内での監視体制は「法人カードの不正利用を防ぐ!社内ルールとセキュリティ対策」でまとめています。
責任の所在は規約による
退職後に使われてしまった場合、その代金を誰が負担するのかは会員規約の定めによります。三井住友カードの法人会員規約第17条第1項では、紛失・盗難・詐取・横領等により他人に不正利用された場合について「会員及び使用者並びにカード担当者は、連帯して本規約に基づきその利用代金について全て支払いの責を負うものとします」と定められています。
この定めは1社の規約の例であり、補償の範囲も免責の条件もカード会社ごとに異なります。実際にどうなるかは、自社が契約している会員規約の該当条項を読み、判断に迷う場合はカード会社に直接ご確認ください。金額が大きい場合や争いになりそうな場合は、弁護士への相談も検討してください。
事前の取り決めが効く場面
回収でもめる会社と、もめない会社の違いは、たいてい入口にあります。カードを貸与する時点で、返却の義務と時期を文書にしているかどうかです。
就業規則に貸与品の返却に関する定めを置く、カード貸与時に誓約書を取る、といった方法があります。ただし、どこまでの取り決めが有効か、どのような条項が適切かは、会社の実情や個別の事情によって変わります。就業規則の変更や誓約書の内容については、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。この記事は法的助言ではありません。
専門家に相談する前に規程の全体像をつかんでおきたい場合は、社内規程の作り方を解説した本を参考にする方法もあります。
貸与時に決めておくべき項目の整理は「法人カードを社員に持たせるときのルールづくり|利用規程に入れる項目と運用設計」、追加カードを持たせること自体のメリットとリスクは「社員に法人カードを持たせるメリットと管理ルールの作り方」で扱っています。

退職時チェックリスト
退職が決まった日
・そのカードに紐づく定期払いを一覧化する
・付け替え先のカードを決める
最終出社日
・券面とETCカードを回収し、受領記録を残す
・モバイル決済の登録を本人の目の前で削除する
・会員サイトのIDとパスワードを引き継ぐ
・立替精算の未処理分を締める
退職日まで
・カード会社へ使用者の退会を届け出る
・後任者のカードを申し込む
退職後
・数か月間、明細にその使用者の利用がないか確認する
よくある質問
Q. 回収したカードは会社で保管しておけばいいですか
カードの所有権はカード会社にあるため、保管ではなく処分または返却が原則です。三井住友カードの法人会員規約では、会社が必要と認めた場合には返却、または会員番号等を通知した書面は破棄するものとされています。処分する場合は、ICチップと磁気ストライプを含めて切断してください。
枚数が多い場合は、カードの裁断に対応したシュレッダーを使うと作業の手間を減らせます。
Q. 退職者のカードを後任者にそのまま使わせてもいいですか
規約上できません。カードは券面に印字された使用者本人以外は使用できないものとされ、他人に使用させることも禁じられています。後任者には新しく使用者カードを発行してもらってください。
Q. 退職日より前にカードを止めても問題ないですか
業務上の必要がなくなった時点で止めること自体は会社の判断でできます。ただし本人が業務で使う予定がある場合はトラブルの元になるため、いつ止めるかを事前に伝えておくのが穏当です。
Q. ETCカードは車に挿したままでも大丈夫ですか
ETCカードも回収対象です。社用車を共用している会社では、誰名義のETCカードがどの車に入っているかを一覧にしておくと、退職時の確認が短時間で終わります。
Q. 使用者の退会を届け出ないとどうなりますか
従業員でなくなった時点で使用者資格の取消事由に当たるため、カード会社が把握したタイミングで整理されることがあります。届出が遅れると、更新のタイミングで想定外の動きが出ることもあります。更新まわりは「法人カードの更新カードが届かないときに確認すること」で扱っています。
Q. 会社全体でカードを解約する場合の手順は違いますか
使用者単位の退会と、法人としての退会は手続きが異なります。定期払いの移行やポイントの扱いを含めた全体像は「法人カードの解約方法!手続きの流れと解約前に確認すべきこと」でまとめています。
まとめ
退職者の法人カードは、「券面を回収する」ではなく「その番号を使えない状態にする」がゴールです。物理的な回収は最終出社日、カード会社への届出は退職日まで、というふうに日付を割り当てておくと、抜けが起きにくくなります。
三井住友カードの法人会員規約では、カードの所有権はカード会社に属すること、使用者の退会は会員から届け出ること、使用者が役員または従業員でなくなった場合は使用者資格の取消事由に当たることが定められています。これらは会社ごとに書きぶりが違うため、自社が契約している会員規約の該当条項を一度読んでおくのが確実です。
就業規則や誓約書の整備は、退職時の混乱をかなり減らします。ただし内容の適否は個別の事情によるため、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。カード会社の手続きについては、発行会社の公式サイトで最新の情報をご確認ください。


