事務所や店舗の家賃は、多くの会社にとって毎月いちばん大きな固定費です。この金額をカードに乗せられたら、資金繰りにもポイントにも効きそうに見えます。実際、「家賃 カード払い」と検索する事業者は少なくありません。
ただ、この話には最初に押さえるべき前提があります。家賃をカードで払えるかどうかを決めているのは、カード会社ではなく貸主・管理会社の側だという点です。手元のカードの性能をいくら比べても、この一点は動きません。

誰が決めているのかを整理する
受け取る側が対応していなければ、そもそも選べない
家賃の支払いは、店頭でカードを出す買い物とは形が違います。毎月決まった額を、決まった相手に、決まった日までに支払う継続的な取引です。この形でカードを使うには、受け取る側が収納の仕組みを用意している必要があります。
賃貸オフィスの場合、家賃を受け取る主体は次のいずれかです。
- 物件のオーナー(個人・法人)が直接受け取る
- 管理会社が集金代行として受け取る
- 家賃保証を行う会社が、保証と収納をあわせて担っている
- サブリース事業者が転貸人として受け取る
このうちどこがカード収納に対応しているかで、選べる支払い方法が決まります。契約書の「賃料の支払方法」の条項と、管理会社からの案内を確認するのが出発点です。
途中から変更できるとは限らない
入居時に口座振替や振込で契約している場合、途中でカード払いに変更できるかは相手方の運用によります。新規契約時なら選べるが既存契約は変更不可、という運用も珍しくありません。まずは「変更できるか」を聞くところから始めてください。
賃貸借契約書や管理会社からの案内は、更新や移転の相談のときにすぐ取り出せるよう、ファイルボックスにまとめておくと便利です。

手数料が上乗せされる場合、還元率と比べる
「ポイントが貯まる」だけで判断しない
カード収納に対応している場合でも、決済手数料が入居者側に上乗せされることがあります。ここで必要なのは、手数料と還元を同じ単位に揃えて比べることです。
比べ方は次のとおりです。
- 1か月の家賃(税込)を書き出す
- カード払いにした場合に上乗せされる手数料を、円で計算する
- そのカードの還元を、円換算で計算する(ポイントの交換レートを反映させる)
- 2と3を引き算する
- 年額に直して、金額の大きさを確認する
手数料率が還元率を上回っていれば、支払うたびに差額が出ていきます。逆に上乗せがない運用なら、還元の分だけ差が生まれます。ポイントを円で評価する方法は「法人カードの還元率は円換算で比べる|ポイントの価値と対象外になる支払いの見抜き方」で詳しく扱っています。
手数料と還元を円に直して比べる計算は、手元に電卓を置いておくと確認しながら進められます。
手数料率も還元率も、契約や規約によって変わります。この記事では特定の管理会社や決済サービスの手数料率は掲載していません。実際の数値は、契約先から提示された条件と、カード会社の規約で確認してください。ネット上の古い数値をそのまま使うと、判断を誤ります。
還元の対象外になる支払いもある
カードによっては、特定の種類の支払いをポイント加算の対象外としている場合があります。家賃の収納が加算対象かどうかは、カード会社の規約や特約の記載を確認してください。規約の読み方は「法人カードの会員規約はどこを読むか|適用される規約の見分け方と社内で起きやすい違反」で扱っています。
資金繰りの観点では意味がある
手数料の上乗せがある場合でも、支払いを後ろにずらせるという効果は残ります。家賃の支払期日が「前月末」の契約は多く、実際に使う月より前に資金が出ていきます。カードを挟むと、その資金が手元に残る期間が延びます。
この効果を金額で評価するなら、「何日ずれるか」と「その間に手元にある金額」を書き出してみるのが早道です。短期の資金繰りが厳しい時期なら、手数料を払ってでも意味がある場面はあります。反対に、資金に余裕があるなら手数料の分だけ損になります。
事務所家賃には消費税がかかる
住宅の貸付けとの違い
ここは経理上の重要な違いです。国税庁は「住宅の貸付けは、非課税とされます」としたうえで、住宅とは人の居住の用に供する家屋またはその部分をいうと説明しています。さらに「店舗等併設住宅については、住宅部分のみが非課税とされますので、その家賃については住宅部分と店舗部分とを合理的に区分することとなります」としています(出典:国税庁 No.6226 住宅の貸付け/令和7年4月1日現在法令等)。
つまり、事務所や店舗として借りている部分の家賃は課税取引として扱われるのが原則です。自宅の一部を事務所にしている場合は、区分の考え方が関わってきます。個人事業主が事業と家事の両方に関わる支出をどう扱うかについては、国税庁が必要経費の考え方を示しています(参考:国税庁 No.2210 必要経費の知識)。
敷金・保証金と共益費の扱い
同じページでは、家賃の範囲についても示されています。「家賃には、月決め等の家賃のほか、敷金、保証金、一時金等のうち返還しない部分を含みます」「共同住宅における共用部分に係る費用(エレベーターの運行費用、廊下等の光熱費、集会所の維持費等)を入居者が応分に負担する、いわゆる共益費も家賃に含まれます」とされています。
返還される敷金と、返還されない部分では扱いが異なるという点は、契約時にまとまった金額を支払う場面で効いてきます。個別の判定は顧問税理士にご確認ください。

証憑をどう残すか
家賃をカード払いにすると、これまで届いていた領収書が来なくなることがあります。ここでも、カード明細の位置づけを押さえておく必要があります。
国税庁は、クレジットカード会社が交付する利用明細書について、課税資産の譲渡等を行った事業者が作成・交付する書類ではなく、適格請求書の記載事項も満たさないため、一般的に適格請求書には該当しないという考え方を示しています(参考:国税庁 インボイス制度特集)。
家賃のように契約書に基づいて継続的に支払われるものについては、契約書と支払いの記録を組み合わせて確認する扱いが示されています。何をどう残すかは「法人カードのインボイス対応|利用明細だけでは足りない理由とおすすめの実務手順」を参考に、貸主が適格請求書発行事業者かどうかもあわせて確認してください。
支払い方法を変えるときは、貸主から交付される書類がどう変わるかを事前に確認してください。「振込のときは領収書が来ていたが、カードにしたら来なくなった」という状態を放置すると、決算の直前に書類を集め直す作業が発生します。
どの書類を残せばよいかを判断するには、インボイス制度の要点を一冊で押さえておくと、貸主とのやり取りもしやすくなります。
枠の問題を忘れない
家賃は毎月の固定費のなかで最も大きくなりがちです。これをカードに乗せると、利用可能枠のうち相当部分を毎月占有することになります。仕入れや広告費と枠を取り合う事業では、家賃をカードに乗せた結果、月末に他の支払いが通らないという事態も起こり得ます。
枠の設計は「法人カードで経費の上限を管理する方法|利用可能枠の仕組みと社内ルールの組み合わせ方」、枠が足りないときの考え方は「法人カードの限度額を上げる方法|増額審査のポイントと申請手順」で扱っています。仕入れと広告費で枠を取り合う構造は「EC事業者が法人カードを選ぶときの考え方|仕入れと広告費が枠を取り合う問題」も参考になります。
判断の順番
| 順番 | 確認すること | 確認先 |
|---|---|---|
| 1 | 契約上の支払方法はどうなっているか | 賃貸借契約書 |
| 2 | カード払いに変更できるか | 貸主・管理会社 |
| 3 | 手数料の上乗せがあるか、いくらか | 貸主・管理会社 |
| 4 | その支払いがポイント加算の対象か | カード会社の規約 |
| 5 | 利用可能枠に余裕があるか | カードの会員ページ |
| 6 | 領収書・請求書がどう変わるか | 貸主・管理会社 |

よくある質問
Q1.どの法人カードなら家賃を払えますか
カードの種類では決まりません。貸主・管理会社・保証会社がカード収納に対応しているかどうかで決まります。まず契約先に確認してください。
Q2.振込をカード決済に置き換えるサービスを使えば払えますか
振込をカードで代行する仕組みは存在しますが、手数料がかかるのが通常です。仕組みと使いどころは別の記事で整理しています。ポイント目的ではなく資金繰りの手段として検討する性質のものです。
Q3.手数料がかかっても、ポイントで取り返せますか
手数料率と還元率を円に揃えて比べてください。還元率が手数料率を下回っていれば、支払うたびに差額が出ます。
Q4.自宅兼事務所の家賃はどう扱いますか
国税庁は、店舗等併設住宅について住宅部分のみが非課税とされ、家賃は住宅部分と店舗部分を合理的に区分することとなるとしています。区分の方法は顧問税理士にご相談ください。
Q5.敷金をカードで払えますか
これも受け取る側の対応次第です。金額が大きいため、利用可能枠が足りるかも同時に確認する必要があります。
Q6.家賃をカードで払うと勘定科目は変わりますか
支払い手段が変わっても費用の性質は変わりません。ただし、支払った時点と引き落とし日がずれるため、未払金の計上が必要になる場合があります。処理は「法人カードの経費仕訳ガイド|勘定科目の使い分けを解説」を参考に、顧問税理士にご確認ください。
まとめ
オフィスの家賃をカードで払えるかどうかは、カード選びの問題ではありません。貸主側が対応しているか、手数料の上乗せがあるか、その2つで大半が決まります。
対応していて、上乗せもないのであれば、資金繰りにもポイントにも効く選択肢です。上乗せがあるなら、円に揃えて比べたうえで、資金繰りの必要があるかどうかで判断してください。ポイントだけを理由にすると、たいていの場合は手数料のほうが上回ります。

