法人カードを導入すれば経理が楽になる、という説明はよく見かけます。ただ、実際に導入してみると「思ったほど楽になっていない」と感じるケースも少なくありません。原因の多くは、経理業務のどの工程に効いていて、どの工程には効いていないのかを分けずに考えていることにあります。
この記事では、会計ソフトとの連携手順そのものではなく、月次の経理業務を工程に分解して、カードが効く場所と効かない場所を見極めるという視点で整理します。会計ソフトとの接続方法は法人カードと会計ソフトの連携ガイド、経費精算の仕組みづくりは法人カードで経費精算を効率化する記事で扱っています。

月次の経理業務を6つの工程に分ける
会社によって呼び方は違いますが、月次の流れはおおむね次のように分けられます。
| 工程 | やっていること | カードの効き方 |
|---|---|---|
| 1. 支払い | 取引先への振込、経費の立替 | 大きい |
| 2. 証憑の回収 | レシート・請求書を集める | 小さい |
| 3. 申請と承認 | 経費申請、上長の承認 | 中くらい |
| 4. 記帳 | 仕訳の入力 | 大きい |
| 5. 突合と確認 | 帳簿と明細の照合 | 中くらい |
| 6. 保存 | 証憑・データの保管 | 小さい |
ここで注目したいのは、カードが強いのは「支払い」と「記帳」であって、「証憑の回収」と「保存」ではないという点です。導入後に効率化を実感できない会社は、時間を食っている工程が回収や保存側にあることが多いのです。
効率化に着手する前に、月次のどの作業に何時間かかっているかを一度だけでも記録してみてください。感覚と実際はずれることが多く、記録を取ると手を入れる場所がはっきりします。
工程ごとの作業内容を見直すときは、経理の仕事の全体像を入門書で一度確認しておくのも一つの方法です。
「支払い」の工程で減らせるもの
振込作業そのものが減る
支払いをカードに寄せると、個別の振込作業がカード会社への一括引き落としにまとまります。振込のたびに発生していた手数料や、口座の残高を確認する手間も、まとめて減ります。引き落とし口座の設計については法人カードの引き落とし口座はどう指定するで整理しています。
支払いのタイミングを後ろにずらせる
カード払いは、利用日から引き落とし日までに期間が空きます。JCBの法人カードサービス一覧では、受け取った請求書をカードで支払える「請求書カード払い」が案内されており、同ページには手数料2.98%という記載と、請求書の支払い期限を実質的に約40日先延ばしできるという説明があります。数値は記事執筆時点で同ページに掲載されていたものです。
支払いを後ろ倒しにできること自体は資金繰りに効きますが、手数料が発生するサービスもあります。手数料率と先延ばしできる日数を並べて、自社にとって見合うかどうかを計算してから使ってください。条件は変更されることがあるため、利用前に公式サイトで最新の内容をご確認ください。
「記帳」の工程で減らせるもの
カードの利用明細データを会計ソフトに取り込めば、日付・金額・利用先の入力は不要になります。JCBの法人カードサービス一覧には、幅広い会計ソフト・経費精算システムに対応し、利用明細データを連携することで手入力を大幅に削減できる旨と、最大90%の作業時間短縮という記載があります。これは同社サイトの記載であり、削減できる時間は取引の件数や現在の作業方法によって変わります。
ここで大事なのは、取り込みは「入力の代わり」であって「保存の代わり」ではないということです。データが会計ソフトに入っても、証憑の保存要件を満たしたことにはなりません。この点は法人カードのインボイス対応で詳しく整理しています。

科目の判断に迷う取引が多い場合は、勘定科目の解説書が手元にあると確認が早くなります。
効率化の先にある税制上の優遇措置
経理のデジタル化には、業務時間の削減とは別に、税制上の優遇措置という側面もあります。国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトおよび同庁のパンフレットでは、「優良な電子帳簿」や「デジタルシームレス保存」の要件を満たしている場合に、税制上の優遇措置が受けられると案内されています。
パンフレットに挙げられている優遇措置は次のとおりです。
- 青色申告特別控除75万円(65万円から75万円へ引き上げ。個人事業者が対象で、令和9年分以後の所得税について適用)
- 過少申告加算税の5%軽減措置(原則10%から5%へ)
- 重加算税の10%加重措置の適用除外(令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用)
いずれもあらかじめ届出書を提出する必要があると記載されています。提出期限について、パンフレットでは適用を受ける年分(事業年度)の法定申告期限までに提出すれば大丈夫と説明されています。要件やシステムの条件があるため、適用を考える場合は公式の資料と顧問税理士に確認してください。
パンフレットでは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けたソフトは、税制上の優遇措置を受けるための機能要件を満たしていると案内されています。ソフトを選ぶ段階で認証の有無を見ておくと、後から入れ替える手間を避けられます。
締め日と月次スケジュールを合わせる
工程を整えても、締め日の設計が月次の作業日程と噛み合っていないと、待ち時間が発生します。カードの締め日を過ぎないと明細が確定しないため、明細が確定する日を起点に月次のスケジュールを組み直すほうが、作業が滞りません。
締め日や支払日はカードによって異なります。三井住友カードの法人向けサイトなど各社の公式サイトには、カードごとの締め日と支払日が掲載されています。複数のカードを使っている場合は、締め日がばらばらだと確認のタイミングも分散するため、そろえられるかどうかを一度検討してみてください。明細の確認手順は利用明細を管理する記事にまとめています。

また、月末に発生した経費が今月の明細に載らないという現象は、締め日をまたいだだけであることがほとんどです。この仕組みを社内で共有しておくと、経理への問い合わせが減り、確認にかかる時間もそのぶん短くなります。
効率化が止まる3つの場所
1. 証憑が集まらない
明細は自動で入ってきますが、レシートは人が動かなければ集まりません。ここが詰まると、記帳が終わっていても月次が締まらないという状態になります。回収の動線づくりと電子化についてはレシートを電子化して保管する方法で扱っています。
回収したレシートを読み取る作業が多い場合は、書類スキャナーがあると手間を減らせます。
2. 承認が滞る
申請は上がっているのに承認が止まる、というのは意外に多い詰まりどころです。承認者が一人に集中していないか、モバイルで承認できるかを見直すだけでも流れが変わります。
3. 現金払いが残っている
カード決済に対応していない支払先が残っていると、その分だけ従来のフローも並行して回すことになります。全体を切り替えるのではなく、金額や件数の多い支払いから順にカードへ寄せるほうが、効果が見えやすくなります。

よくある質問
Q. カードを導入すれば経理担当を減らせますか?
入力作業は減らせますが、証憑の回収や確認、判断が必要な処理は残ります。人を減らす前提ではなく、判断や分析に使える時間を増やすという考え方で設計することをおすすめします。
Q. 何から手をつけるのが効率的ですか?
件数の多い定期的な支払い、たとえば通信費やソフトウェアの利用料などをカードに寄せるところから始めると、月次の作業量がわかりやすく減ります。サブスクリプションの管理は法人カードでサブスクの支払いを管理する方法で扱っています。
Q. 会計ソフトの連携は無料でできますか?
会計ソフト側の料金プランやカード会社のサービスによって扱いが異なります。連携そのものに追加料金がかかるかどうかは、両方の公式サイトで確認してください。
Q. 明細の取り込みで仕訳が自動作成されれば、確認は不要ですか?
自動作成される仕訳は提案として扱うのが安全です。同じ利用先でも取引の内容によって科目が変わることがあるため、一定期間は確認を挟む運用をおすすめします。
Q. 優良な電子帳簿の届出はどの事業者でも出せますか?
要件を満たすシステムでの備付け・保存など、条件が定められています。国税庁の特設サイトに要件と様式が掲載されているため、内容を確認したうえで顧問税理士にご相談ください。
Q. 効率化の効果はどのくらいで出ますか?
取引の件数や現在の作業方法によって差が大きく、一律の目安を示すことはできません。着手前に工程ごとの時間を記録しておくと、変化を数字で確認できます。
まとめ
法人カードによる経理の効率化は、支払いと記帳の工程で大きく効きます。一方で、証憑の回収や保存は人と仕組みの問題であり、カードを持っただけでは変わりません。ここを混同したまま導入すると、期待した効果が出ないという印象だけが残ります。
まずは月次の工程を書き出し、どこで時間がかかっているかを確認してください。そのうえで、件数の多い支払いから順にカードへ寄せ、明細データの取り込みを設定し、最後に証憑の回収と保存の運用を整える、という順番が現実的です。効率化は工程ごとに積み上げるもので、一度の設定で完結するものではありません。
記載した内容は記事執筆時点で国税庁および各社の公式ページに掲載されていたものです。制度やサービス内容、手数料は変更されることがあるため、実際の判断にあたっては必ず公式サイトで最新の情報をご確認いただき、税務については顧問税理士にご相談ください。

