介護事業所の資金繰りには、他の業種にはない、はっきりと決まった時間差があります。サービスを提供した月の代金が入るのは、およそ2か月後です。これは景気や取引先の都合ではなく、請求と支払いの制度そのものによって決まっている時間差です。
この記事では、その2か月がどう決まっているのかを公表資料で確認したうえで、法人カードが埋められる部分と埋められない部分を切り分けます。ここを混同すると、カードに過剰な期待をしてしまいます。

介護報酬が入るまでの日数を、実際に数える
請求は「毎月1日~10日」
介護給付費の請求は、国民健康保険団体連合会(国保連)に対して行います。東京都国民健康保険団体連合会は、介護事業所等向けのページで受付期間について「毎月1日~10日」と案内し、あわせて「受付最終日である10日を過ぎて本会が受付けた場合は、翌月受付の扱いとなります」と明記しています(出典:東京都国民健康保険団体連合会 受付日程・提出方法について/記事執筆時点)。
つまり、サービスを提供した月の翌月の10日までに請求を出す、という流れになります。1日でも遅れると、その分の請求は丸ごと1か月後ろにずれます。
支払いは「請求した月の翌月23日ごろ」
同連合会が公表している「令和8年度介護給付費等の支払日について」では、請求年月と支払日の対応が次のように示されています。
| 請求年月 | 支払日 |
|---|---|
| 令和8年4月 | 令和8年5月25日(月) |
| 5月 | 6月23日(火) |
| 6月 | 7月23日(木) |
| 7月 | 8月24日(月) |
| 8月 | 9月24日(木) |
| 9月 | 10月23日(金) |
同資料には、支払日のルールとして「原則23日(土・日・祝日に当たる場合は直後の平日。ただし、支払日が26日以降の日に当たる場合は23日の直前の平日)」との注記があります。
- 5月:サービスを提供する
- 6月1日~10日:国保連に請求する
- 7月23日ごろ:介護報酬が入金される
5月1日に提供したサービスの代金が入るのは、およそ83日後。5月31日提供分でも、およそ53日後です。この間、人件費も家賃も光熱費も、通常どおり出ていきます。
上記の日程は東京都国民健康保険団体連合会が公表しているものです。受付日程や支払日は都道府県ごとに、また年度ごとに異なる場合があります。自事業所が請求している国保連の公表資料で、必ず最新の日程をご確認ください。介護保険制度そのものも改定されますので、制度に関する内容は厚生労働省や各国保連の公式情報をご確認ください。
請求から入金までの流れや開所時の資金計画は、介護事業経営の解説書で一度確認しておくと準備が進めやすくなります。

この2か月を、カードはどこまで埋められるか
埋められるのは「支払いの側」だけ
先に結論を書きます。カードは入金を早める道具ではありません。できるのは、口座から現金が出ていく日を後ろにずらすことだけです。
三井住友カードは、三井住友ビジネスカードおよびビジネスオーナーズの支払日について「15日締め翌月10日お支払い」または「月末締め翌月26日お支払い」と案内しています(出典:三井住友ビジネスカード 公式サイト/記事執筆時点)。月末締め翌月26日を選んだ場合、月初の支出が口座から出ていくのは約2か月弱後になります。
並べると、噛み合う支出と噛み合わない支出がある
| 支出の種類 | カードで後ろにずらせるか |
|---|---|
| 衛生用品・おむつ・消耗品 | ずらせる(カード決済に対応している仕入先が多い) |
| 送迎車両の燃料・高速代 | ずらせる(ETCカードで明細も残る) |
| 介護記録ソフトなどの月額 | ずらせる |
| 人件費 | ずらせない |
| 家賃 | 多くの場合ずらせない |
| 人材紹介の手数料 | 契約によるが、金額が大きい |
介護事業所の費用構成では人件費の割合が大きく、そこはカードでは動かせません。カードで動かせるのは、費用全体のうち一部にとどまるという点は、期待値として持っておくべきところです。それでも、消耗品や燃料の支払日を後ろにそろえられるだけで、月末の資金の見通しは立てやすくなります。
表に挙げた衛生用品やおむつは、業務用のまとめ買いができる通販でもカード払いで購入できます。
利用者負担分と実費は、別の時計で入ってくる
介護事業所の収入は介護報酬だけではありません。利用者の自己負担分や、食費・おむつ代などの実費は、事業所が直接請求して受け取ります。この入金は国保連を経由しないため、タイミングが異なります。
ここで押さえておきたいのは、2つの入金経路があるということは、資金の見通しを立てるときに2つのカレンダーを見る必要があるということです。国保連からの入金日だけを見て資金計画を組むと、実費の回収が遅れたときに読み違えます。口座振替の日付、督促の状況もあわせて把握しておくと精度が上がります。
送迎とスタッフの立替をどう減らすか
カードを何枚配るか
訪問系や通所系の事業所では、スタッフが立て替える場面が出てきます。ガソリン代、駐車場代、急ぎで買った消耗品などです。立替が増えると、精算の事務も増え、スタッフの負担にもなります。
追加カードを配る方法があります。三井住友カード ビジネスオーナーズの公式サイトでは、パートナーカードを18枚まで申し込めると案内されています。ただし「本会員と同時にお申し込みの場合、パートナーカードを1枚のみお申し込みできます」「本会員のカード到着後、2枚目以降のパートナーカードをお申し込みください」との注記があります(出典:三井住友カード ビジネスオーナーズ 公式サイト/記事執筆時点)。
ETCと車両の管理
送迎で高速道路を使う事業所では、ETCカードを追加発行しておくと利用の記録が明細に残ります。ETCカードの選び方は「法人カードのETCカードを選ぶポイント|年会費無料で発行できるカードと活用法」で整理しています。
ETCカードを使うには、送迎車両にETC車載器を取り付けておく必要があります。
- 使ってよい品目と、金額の上限
- 領収書の提出ルール(明細だけでは足りない場面があります)
- 退職時のカード回収の手順
- 私的利用が判明したときの取り扱い

報酬改定と、枠の見直しのタイミング
介護報酬は定期的に改定されます。改定によって収入が変われば、事業所の資金の回り方も変わります。加算の取得状況が変われば、月々の入金額も動きます。
そのため、カードの利用可能枠についても、報酬改定や事業規模の変化があったタイミングで見直しておくと安心です。利用者数が増えれば、おむつや衛生用品の購入額も増えます。枠の考え方は「限度額が高い法人カードが必要な場面とは|おすすめの枠の決め方と確保方法」で扱っています。制度の内容そのものは、厚生労働省や各国保連の公式情報でご確認ください。
開所前と開所後で、必要な準備が違う
開所前は「入金がない期間」の長さで考える
これから事業所を立ち上げる場合、最初の介護報酬が入るまでの期間がそのまま無収入の期間になります。4月に開所して4月中にサービスを提供したなら、請求は5月1日から10日、入金は6月23日ごろ。開所から最初の入金まで、およそ3か月分の運転資金が必要になる計算です。
この期間に発生するのは、人件費、家賃、車両のリース料、備品の購入費などです。カードで支払日を後ろにずらせるのは備品や消耗品といった一部にとどまりますので、残りは自己資金か借入で用意することになります。
開所後は「毎月の谷」の位置を把握する
運営が軌道に乗ったあとは、毎月の入金日と支出日の関係が固定されます。国保連からの入金は23日ごろ、給与の支払いは事業所ごとに決まった日、家賃は月末や月初。この3つを並べると、月内でいちばん資金が薄くなる日が特定できます。カードの締め日は、その谷を避けるように選ぶのが実務的な組み立て方です。

よくある質問
Q. 介護報酬の入金を早める方法はありますか
請求を受付期間内にもれなく提出することが基本です。受付最終日を過ぎると翌月受付の扱いとなり、入金が1か月後ろにずれます。カードには入金を早める機能はありません。
Q. 開所したばかりで、最初の入金までの資金が不安です
最初の請求から入金までに2か月前後かかることを前提に、運転資金を準備しておく必要があります。カードで支払日をずらせるのは費用の一部です。公的な相談窓口として、中小企業基盤整備機構のよろず支援拠点は、公式サイトで「中小企業・小規模事業者、NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等」を対象に無料で相談に対応すると案内しています(参考:よろず支援拠点/記事執筆時点)。
Q. 社会福祉法人でも法人カードに申し込めますか
カード会社の公式ページで社会福祉法人を対象に含めると明記した記載は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。法人格を持っていても申込条件に列挙されていないことがありますので、発行会社への直接の確認をおすすめします。確認の進め方は「NPO法人は法人カードに申し込めるのか|確認すべき申込条件と準備する書類」が参考になります。
Q. 事業所ごとにカードを分けたほうがよいですか
事業所別に明細を分けたい場合は有効です。一方で、枚数が増えれば管理の手間も増えます。複数枚の運用設計は「法人カードを複数枚使い分ける方法|3枚以上を運用するときの管理設計」で整理しています。
Q. 人材紹介の手数料をカードで払えますか
紹介会社の対応によります。金額が大きくなりやすい支出ですので、カードで払える場合でも利用可能枠に収まるかを事前に確認してください。
Q. カードの利用明細は、実地指導の資料として使えますか
明細は支払いの記録ですが、何をいくつ買ったかまでは残りません。領収書や納品書とあわせて保存しておく必要があります。証憑の考え方は「法人カードのインボイス対応|利用明細だけでは足りない理由とおすすめの実務手順」で整理しています。
まとめ
介護事業所の資金繰りを考えるうえでの出発点は、サービス提供から入金までにおよそ2か月かかるという、制度で決まった事実です。請求は毎月1日から10日、支払いは請求した月の23日ごろというサイクルを、自事業所が請求している国保連の公表資料で確認しておいてください。
そのうえで、法人カードにできることは支出の引き落とし日を後ろにずらすことだけです。人件費や家賃は動かせませんので、カードが効くのは消耗品・燃料・月額サービスといった部分に限られます。過剰な期待はせず、立替の解消と明細の記録という効果とあわせて評価するのが現実的です。
介護保険制度は改定が頻繁で、国保連の日程も年度ごとに更新されます。カードの条件も改定されることがあります。この記事の内容は記事執筆時点で公式に確認できたものですので、実際の判断にあたっては各公式情報で最新の内容をご確認ください。会計や税務の取扱いは、顧問税理士にご相談ください。

