セミナーの受講料、資格スクールの授業料、業務で使う専門書。これらを法人カードでまとめて払っている会社は多いと思います。ところが決算前になって、経理担当者から「この研修費、給与として処理が必要かもしれません」と言われて慌てる、というのはよくある話です。
研修費と書籍代は、金額こそ大きくないものの、支出の性格が「会社の経費」と「個人への利益供与」の境目に立ちやすいという特徴があります。法人カードで払えば明細は残りますが、明細に残るのは「いつ・どこに・いくら」だけです。その支出が誰のための、何のためのものだったかは、明細の外側で残しておく必要があります。

研修費は「会社の業務に直接必要か」で扱いが分かれる
国税庁が示している判断の軸
従業員が参加する研修について、国税庁は次のように示しています。
「研修旅行が会社の業務を行うために直接必要な場合には、その費用は給与として課税されません。しかし、直接必要でない場合には、研修旅行の費用が給与として課税されます。また、研修旅行の費用に会社の業務を行うために直接必要な部分と直接必要でない部分がある場合には、直接必要でない部分の費用は、参加する人の給与として課税されます。」(出典:国税庁 No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行/令和7年4月1日現在法令等)
同じページでは、原則として業務に直接必要とはならない例として、同業者団体が主催する主に観光旅行を目的とした団体旅行、旅行のあっせん業者などが主催する団体旅行、観光渡航の許可をもらって海外で行う研修旅行が挙げられています。
ここで押さえておきたいのは、判定の軸が金額ではなく内容だという点です。3万円のセミナーでも業務との関連が説明できなければ問題になり得ますし、30万円の専門研修でも業務に直結していれば経費として扱われます。
研修費で問われるのは「いくらか」ではなく「業務に直接必要か」です。カード明細に残る金額の大小で安心せず、業務との関連を説明できる資料を一緒に残すのが実務の要点になります。
学資に充てる費用は別のルールで見る
資格取得のための学費やスクールの授業料など、いわゆる学資に充てるための費用については、国税庁が別のコードで扱いを示しています。使用人に学資に充てるための費用を支給する場合、一定の要件を満たしていれば給与として課税しなくてもよいとされています。
その要件のひとつが「通常の給与に加算して支給する費用であること」です。国税庁は「給与として課税しなくてもよいものは、通常の給与に加算して支給されるものに限られますので、本来支給すべき給与の額を減額した上で、それに相当する額を学資金として支給するものなどは給与として課税されます」としています(出典:国税庁 No.2588 学資に充てるための費用を支出したとき/令和7年4月1日現在法令等)。
加えて、法人の場合は「役員の学資に充てるため支給する費用」および「役員や使用人と特別の関係がある者の学資に充てるため支給する費用」は、この取扱いの対象外とされています。代表者本人の資格取得費用を法人カードで払うケースは、この点に注意が要ります。
業務に直結する学習の例としては、経理担当者が簿記のテキストで基礎を学ぶといった形があります。教材選びの参考にしてみてください。

書籍代は金額と使い方で置き場所が変わる
新聞図書費という受け皿
業務で使う専門書、業界誌、有料のオンライン記事購読などは、新聞図書費として処理するのが一般的です。勘定科目の名称そのものは法律で決まっているものではないため、会社が継続して同じ基準で使い分けていることのほうが重要になります。勘定科目の考え方全般は「法人カードの経費仕訳ガイド|勘定科目の使い分けを解説」で整理しています。
迷いやすいのは、書籍というより資料に近いものです。たとえば市場調査レポート、統計データの購入、判例データベースの年間利用料などは、書籍代というより情報サービスの利用料に近い性格を持ちます。ここは会社の中で「紙かデータか」ではなく「1回買い切りか、継続利用か」で分けると、後から見返したときに筋が通ります。
科目の使い分けに迷う場面が多い場合は、勘定科目の本を1冊手元に置いておくと、社内で基準を決めるときの目安になります。
10万円というラインを意識する場面
研修用の教材一式や、高額な専門書のセットを購入した場合、金額によっては減価償却資産としての判定が絡んできます。国税庁は少額の減価償却資産について「取得価額が10万円未満のもの」を挙げ、「この取得価額は、通常1単位として取引されるその単位ごとに判定します」としています(出典:国税庁 No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示/令和7年4月1日現在法令等)。
同じページでは、応接セットのようにテーブルと椅子が1組で取引されるものは1組で判定する、といった例示も示されています。書籍については通常1冊ずつ取引されるため10万円未満に収まることがほとんどですが、全巻セットや教材パッケージとして一括で購入した場合は、単位の取り方を経理担当者と確認しておくと安心です。
取得価額が20万円未満の減価償却資産については一括償却資産の規定、中小企業者等については取得価額30万円未満の特例と、複数の制度が並んでいます。どの制度を使えるかは会社の区分や事業年度によって変わるため、金額が大きいものは購入前に顧問税理士に相談するのが確実な進め方です。
法人カードで払うと何が楽になるのか
支出の時系列がそのまま残る
研修費と書籍代は、担当者が個人で立て替えて後から精算する形になりがちです。ところがこの形だと、領収書が出てくるのが翌月、下手をすると翌々月になります。法人カードで直接払えば、申し込んだ日そのものが明細に載るため、どの案件に紐づく支出だったかを思い出しやすくなります。
明細を月次でどう扱うかは「法人カードの利用明細を管理する方法|確認の習慣化とデータ保存の実務」でまとめています。
誰が申し込んだのかを追えるようにする
研修は参加者が特定できて初めて、業務との関連を説明できます。追加カードを部署や担当者ごとに分けておくと、明細の段階で「誰の研修か」がある程度絞り込めます。1枚のカードに全社の支出を集約している場合は、申込完了メールを共有フォルダに保存する、社内の申請フォームに研修名と参加者名を残すといった補い方が要ります。
インボイスは明細だけでは足りない
カード会社が発行するご利用代金明細書は、原則として適格請求書には該当しません。研修事業者やオンライン書店から発行される領収書・請求書のほうを保存しておく必要があります。この点は「法人カードのインボイス対応|利用明細だけでは足りない理由とおすすめの実務手順」で詳しく整理しています。

支払いのしかたで気をつけたい実務
会場払い・当日払いが混ざる研修
オンライン申込はカード払い、テキスト代だけ当日現金、という研修は珍しくありません。この場合、カード明細と手元の領収書が別々に発生します。同じ研修の支出が2か所に分かれるので、申請書に研修名を書いて両方を紐づける運用にしておくと、決算時の突合が短時間で終わります。
当日受け取った紙の領収書は、研修ごとにファイルへまとめておくと、申請書との紐づけがしやすくなります。
キャンセル料が発生したとき
参加予定者の都合で研修をキャンセルし、規定のキャンセル料だけが請求されるケースがあります。この場合、実際には研修を受けていないため、研修費として処理するのが適切かどうかは会社によって判断が分かれます。金額が小さければ雑費として処理する会社もあります。大切なのは科目そのものより、なぜその科目にしたのかを説明できることです。
団体の年会費との整理
業界団体の年会費や、資格維持のための登録料は、研修費とは別の性格を持ちます。カードの年会費の扱いについては「法人カードの年会費は経費にできる?勘定科目と仕訳方法を解説」で触れていますが、団体の年会費も同じように「何に対する対価か」で置き場所を決めるのが基本になります。
社内ルールに落とし込むときの3点
1. 研修の申請時に「業務のどの場面で使う知識か」を1行で書かせる
2. 参加者名を記録する(複数人参加なら全員分)
3. 金額の上限と、上限を超える場合の承認者を決めておく
この3点があるだけで、決算前に「この研修は何でしたっけ」という確認作業がほぼ消えます。社員にカードを持たせている場合の運用設計は「法人カードを社員に持たせるときのルールづくり|利用規程に入れる項目と運用設計」も参考になります。

よくある質問
Q. 代表者ひとりの会社でも研修費は経費にできますか
業務に直接必要な内容であれば経費として処理する余地があります。ただし国税庁のNo.2588では、学資に充てるための費用について、法人の役員に対して支給するものは給与として課税しない取扱いの対象外とされています。資格取得のためのスクール代のように学資の性格が強いものは、扱いが変わる可能性があるため、事前に税理士に確認しておくと安心です。
Q. 社員が自主的に受けた研修の費用を後から会社が負担してもいいですか
負担すること自体は会社の判断でできます。問題になるのは税務上の扱いのほうで、業務との関連が説明できるかが分岐点になります。会社として受講を推奨していた記録(社内メールや研修案内の配布履歴など)が残っていると、説明がしやすくなります。
Q. 電子書籍やオンライン講座のサブスクは書籍代ですか
買い切りの電子書籍は書籍と同様に扱われることが多く、月額で継続課金されるオンライン講座は、書籍というより情報サービスの利用料に近い性格を持ちます。会社としてどちらの科目に置くかを決めて、継続して同じ扱いにするのが基本です。継続課金の管理方法は「法人カードでサブスクの支払いを管理する方法|解約漏れとコストの見える化」でまとめています。
Q. 領収書が電子データでしか出ない研修はどうすればいいですか
電子取引で受け取ったデータは、電子データのまま保存することが求められます。PDFをダウンロードして共有フォルダに保存し、日付・取引先・金額で検索できる形にしておくのが実務的です。保存要件の詳細は、税理士や国税庁の資料でご確認ください。
Q. 研修費と福利厚生費の違いはどこにありますか
おおまかに言えば、業務遂行のために必要な知識や技能を得るための支出が研修費、従業員の生活面や健康面を支える支出が福利厚生費です。境目にあるものはどちらにも寄せられるため、社内の基準を決めておくのが現実的です。福利厚生の考え方は「法人カードで福利厚生が充実?従業員満足度UPとコスト削減の活用術」でも触れています。
Q. 研修の交通費や宿泊費はどこに入れますか
一般には旅費交通費として処理されます。研修費と旅費交通費を分けておくと、翌年に同じ研修を検討するときの原価が見えやすくなります。出張がらみの経費の組み立て方は「コンサルタントや講師の出張費を法人カードで回す方法|立替の順番と旅費の扱い」も参考になります。
まとめ
研修費と書籍代を法人カードで払うこと自体は、支出の記録が自動的に残るという点で理にかなっています。ただし明細が答えてくれるのは「いつ・どこに・いくら」までで、「誰のために・何のために」は別に残す必要があるという構造は変わりません。
国税庁は研修について、会社の業務を行うために直接必要かどうかで給与課税の有無が変わるとしています。学資に充てるための費用にはさらに別の要件があり、法人の役員に対するものは取扱いの対象外とされています。判断に迷う支出は、金額の大小にかかわらず購入前に税理士へ相談するのが結局いちばん早いという結論になります。
税制や通達の取扱いは改正されることがあります。最終的な判断の前には、国税庁の最新の情報をご確認ください。


