不動産の賃貸経営をしている方から、法人カードを作りたいという相談を受けることがあります。ただ、この分野は申し込みができるかどうかの前に、確認しておくべきことが多いのが実情です。事業として行っている規模なのか、法人でやっているのか個人でやっているのか。その整理ができていないと、申込フォームの入力段階で手が止まります。
この記事では、賃貸経営をしている方がカードを検討するときに、申し込みの前に自分で把握しておきたいことを整理します。作れると断定する記事ではありません。申込条件を読むための下準備をそろえる、という内容です。

まず「事業として行われているか」を把握する
国税庁が示している目安
不動産の貸付けによる所得は不動産所得になりますが、その貸付けが事業として行われているかどうかで、所得金額の計算上の取扱いが変わる場合があります。国税庁は、事業として行われているかどうかは原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって実質的に判断するとしたうえで、建物の貸付けについて次の基準を示しています。
貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。このいずれかに当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます(出典:国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分/令和7年4月1日現在法令等)。
この区分が申告にも影響する
同ページによると、青色申告特別控除について、不動産貸付けが事業として行われている場合は正規の簿記の原則による記帳を行うなどの一定の要件を満たすことにより最高55万円の控除を受けることができ、この55万円の控除を受けることができる人が電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行っている場合は65万円の控除が受けられるとされています。それ以外の場合の控除額は最高10万円です。
ほかにも、賃貸用固定資産の取壊しなどの資産損失の扱い、賃貸料の回収不能による貸倒損失の扱い、事業専従者給与の適用の有無に違いがあると案内されています。つまり、この区分は帳簿の作り方そのものに関わってきます。
- アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上が目安
- いずれかに当てはまれば原則として事業として取り扱われる
- この区分で青色申告特別控除の額が変わる
- 申し込みの前に、自分がどちらで申告しているかを確認しておく
不動産所得の帳簿や申告の基本は、大家さん向けの解説書で一通り押さえておくと整理しやすくなります。
申込フォームで問われることと突き合わせる
法人でやっているのか、個人でやっているのか
賃貸経営は、資産管理会社などの法人を通じて行っている方と、個人の名義で行っている方の両方があります。法人カードの申込条件は、この違いで読み方が変わります。
三井住友カード ビジネスオーナーズは、公式サイトでお申し込み対象を「満18歳以上(高校生は除く)の法人代表者、個人事業主(副業、フリーランスを含む)の方」と案内しています(出典:三井住友カード ビジネスオーナーズ/同ページ内に2026年5月26日時点との注記あり)。法人であれば法人代表者として、個人であれば個人事業主として読むことになります。
ただし今回、カード会社の公式ページを確認した範囲では、不動産賃貸業を申し込み対象として明記している記載も、対象外として明記している記載も見当たりませんでした。明記がないことは可否のどちらの根拠にもなりません。判断はカード会社に確認してください。
業種欄をどう書くか
申込フォームには業種を選ぶ欄があるのが一般的です。不動産賃貸業に相当する選択肢がある場合は、実態に合わせて選びます。似た名前の業種として不動産売買業や不動産仲介業が並んでいることがありますが、これらは別の事業です。実態と異なる業種を選ぶのは避けてください。
公開されている申込条件から絞り込む方法は審査が心配なときの法人カードの探し方で整理しています。


大家の支出は、カード向きとそうでないものに分かれる
そもそもカードを通せない支出がある
賃貸経営の支出には、カード決済の余地がないものが少なくありません。国税庁は不動産所得の必要経費として、貸付資産に係る固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費を主なものとして挙げています(出典:国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)/令和7年4月1日現在法令等)。
このうち減価償却費は現金支出を伴いません。固定資産税は納付方法が限られる場面があります。損害保険料は保険会社の対応によります。カードにまとめられる支出は、思っているより限定的だということです。税金の納付方法については法人カードで税金を納付する方法で整理しています。
管理会社を通す費用は差引精算になりやすい
管理を委託している場合、小規模な修繕や原状回復の費用を管理会社が立て替え、月々の家賃送金から差し引いて精算するという運用が広く使われています。この形だと、支出が自社のカードを通ることはありません。
一方、自主管理をしている場合や、大規模な工事を自分で発注する場合は、カードで支払える余地が出てきます。どの費用が管理会社経由で、どの費用が自分で払う分なのかを分けて把握するのが、カードの使いどころを見極める出発点になります。
管理会社の差引精算で支払った費用は、カードの利用明細には現れません。精算書と帳簿を別途突き合わせる必要があります。カードの明細だけを見て経費の全体像を把握したつもりになると、抜けが生じます。
精算書や領収書を物件ごとにファイルで分けておくと、帳簿との突き合わせがしやすくなります。
突発的な高額決済は、税務上の区分と重なる
修繕費になるか資本的支出になるか
賃貸経営でカードの利用可能枠が問題になるのは、たいてい突発的な修繕のときです。給湯器の故障、外壁、屋上防水、エアコンの入れ替え。予定していなかった支出が、一度にまとまった金額で発生します。
この金額は、税務上の区分ともちょうど重なる位置にあります。国税庁は、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額は修繕費として支出した時に損金算入が認められるとしたうえで、使用可能期間を延長させたり価値を増加させたりするものは資本的支出になると案内しています。
そのうえで、一つの修理や改良などの金額が20万円未満の場合、またはおおむね3年以内の期間を周期として行われることが明らかな修理・改良などである場合は、その支出した金額を修繕費とすることができるとされています。また、修繕費か資本的支出か明らかでない金額については、その支出した金額が60万円未満のとき、またはその固定資産の前事業年度終了の時における取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるときは修繕費とすることができる、という基準も示されています(出典:国税庁 No.5402 修繕費とならないものの判定/令和7年4月1日現在法令等)。
枠は「平時」ではなく「工事の月」で考える
20万円、60万円という金額が出てきましたが、実際の工事はこの水準を超えることもよくあります。カードの利用可能枠を考えるとき、毎月の管理費や光熱費を基準にすると、いざ工事という場面で足りなくなります。
枠の決め方は限度額が高い法人カードが必要な場面とはや限度額が高い法人カードの選び方で整理しています。なお、工事業者がカード決済に対応しているかどうかは事前の確認が必要です。建設業で法人カードを選ぶときの視点も、発注側の視点で読むと参考になります。

物件ごとに経費を分けたいとき
複数の物件を持っていると、どの支出がどの物件のものかを分ける作業が発生します。カードを物件ごとに分けて発行するという方法もありますが、枚数が増えると管理そのものが負担になります。
現実的な落としどころは、金額の大きい支出だけカードを分ける、あるいは1枚にまとめたうえで明細に物件名のメモを付けていく、といったところです。複数枚の運用設計は法人カードを複数枚使い分ける方法、明細の扱いは法人カードの利用明細を管理する方法を参考にしてください。
精算書や明細を物件ごとにデータで残しておきたい場合は、書類スキャナーを使う方法もあります。
よくある質問
Q1. 大家でも法人カードは作れますか
作れると断定できる公式情報は確認できませんでした。カード会社の申込条件は法人代表者や個人事業主といった括りで書かれており、業種による可否を明記しているページは見当たりません。申し込み前にカード会社へ確認することをおすすめします。
Q2. 区分マンション1室だけでも申し込めますか
国税庁の目安ではアパート等でおおむね10室以上、独立家屋でおおむね5棟以上が事業として取り扱われる基準とされています。1室のみの場合、事業としての規模には当たらないと判断される可能性があります。申告の状況も含めてカード会社に確認してください。
Q3. 個人名義の物件なら個人事業主向けのカードですか
個人で賃貸経営をしている場合、対象になるのは個人事業主向けのカードという整理になります。選び方は個人事業主向け法人カードの選び方や個人事業主でも法人カードは作れる?おすすめカードと審査のコツで整理しています。
Q4. 固定資産税はカードで払えますか
納付方法は自治体によって異なります。対応している場合でも決済手数料が発生することがあり、還元率との損得が変わります。詳しくは法人カードで税金を納付する方法と、お住まいの自治体の案内をご確認ください。
Q5. 修繕費と資本的支出の判断は自分でできますか
国税庁が金額の目安を示していますが、実際の判断はその工事の内容によります。金額が大きい工事ほど影響も大きくなるため、税理士に確認したうえで処理するのが安全です。
Q6. 資産管理会社を作ればカードは作りやすくなりますか
法人格があれば法人代表者として申し込む形になりますが、それだけで審査に通るという性質のものではありません。設立直後の申し込みについては設立直後でも作れる法人カードで整理しています。
まとめ
賃貸経営でカードを検討するときは、還元率を比べる前に3つのことを整理しておくと話が早くなります。自分の貸付けが事業として行われている規模なのか、法人と個人のどちらの名義でやっているのか、そして実際にカードを通せる支出がどれだけあるのかです。
国税庁はアパート等でおおむね10室以上、独立家屋でおおむね5棟以上という目安を示しており、この区分は青色申告特別控除の額にも関わります。また、突発的な工事の金額は修繕費と資本的支出の境目とも重なるため、カードの枠と税務上の区分を並べて考えると判断がしやすくなります。申込条件・年会費・利用可能枠は改定されることがあるため、申し込みの前に各社の公式サイトで最新の内容をご確認ください。

