人材派遣業の資金繰りには、他の業種にはない厳しさがあります。派遣スタッフへの給与は毎月支払わなければならない一方、クライアントからの入金はその後になるという構造が、事業の規模が大きくなるほど重くのしかかってくるからです。スタッフが100人いれば、100人分の給与を先に用意することになります。
この記事では、派遣事業を運営している方がカードをどう位置づけるかを整理します。結論から言うと、カードは給与の立替そのものを肩代わりする道具ではありません。その前提を押さえたうえで、どこに効かせるかを考えていきます。

支払いが先、入金が後という構造
給与の支払いは待ってくれない
派遣スタッフの給与は、勤務した月の翌月など、決められた期日に支払われます。一方、クライアントへの請求は月末で締めて翌月に請求書を出し、支払いはさらにその後というのが一般的です。この差が、そのまま立替の期間になります。
取引条件によっては、給与の支払いから入金までのあいだが1か月以上空くこともあります。この期間に必要な現金は、稼働しているスタッフの人数に比例して増えていきます。受注が増えるほど、先に用意しなければならない金額も増えるという関係です。
社会保険料も同じ時期に出ていく
給与だけではありません。社会保険の適用対象となるスタッフがいれば、事業主負担分の保険料も発生します。給与の支払いと保険料の納付が近い時期に重なるため、月のうち特定の時期に現金の流出が集中する形になります。
- 給与の支払いは期日が決まっていて動かせない
- クライアントからの入金は締め日と支払条件に従う
- 稼働人数が増えるほど、必要な運転資金も増える
- 月の特定時期に現金の流出が集中する
給与の支払日と入金日を並べた資金繰り表の作り方は、資金繰りの解説書で一度確認しておくと計画を立てやすくなります。
給与はカードでは払えない
だからカードの役割は別のところにある
ここが人材派遣業でカードを考えるときのいちばん重要な切り替えです。給与はカードで支払う性質の支出ではありません。つまり、資金繰りのいちばん重い部分に、カードは直接効かないということです。
ではカードに意味がないかというと、そうではありません。発想を逆にします。給与以外の支出をできるだけカードに寄せて、口座から現金が出ていくタイミングを後ろにずらす。そうすることで、給与の支払日に手元に残しておける現金を増やすという使い方です。
カードに寄せられる支出
派遣事業の支出のうち、カードに集約しやすいのは次のようなものです。求人媒体への出稿費、人材管理システムや勤怠システムの利用料、オフィスの通信費や公共料金、営業活動の交通費、スタッフ向けの教育研修にかかる費用、事務用品や備品の購入。
特に求人広告費は、募集の状況によって金額が大きく変動し、繁忙期にまとまって出ていく支出です。この部分をカードに乗せられると、給与の支払いとタイミングをずらせます。公共料金の切り替えは法人カードで公共料金を支払うメリット、毎月のシステム利用料の管理は法人カードでサブスクの支払いを管理する方法で整理しています。

利用可能枠が事業の規模に直結する
枠は「今」ではなく「増えたとき」で見る
求人広告費は、スタッフを増やそうとする局面でまとまって出ます。つまり、事業を伸ばそうとするタイミングと、カードの利用が増えるタイミングが重なります。今の稼働人数を基準に枠を考えると、伸ばそうとした瞬間に足りなくなります。
枠が足りずに広告出稿を止めるという事態は避けたいところです。申し込みの段階から、増員を見込んだ金額で枠を考えておくと、後で困りにくくなります。枠の決め方は限度額が高い法人カードが必要な場面とはや限度額が高い法人カードの選び方で整理しています。
枠の使い方も設計しておく
1枚のカードにすべてを集約すると、月末に枠を使い切ってしまうことがあります。営業用と管理部門用でカードを分ける、広告費専用の1枚を用意するといった設計をしておくと、業務が止まりにくくなります。複数枚の運用は法人カードを複数枚使い分ける方法、締め日をずらす組み合わせは法人カードの2枚持ちで組む組み合わせパターンを参考にしてください。

スタッフの交通費をどう扱うか
派遣事業では、スタッフの交通費や出張にかかる費用の扱いが論点になることがあります。国税庁は、事業者が使用人等に支給する通勤手当(通勤定期等の現物による支給を含む)のうち通勤のために通常必要とする範囲内のものは、所得税法上非課税とされる金額を超えている場合であっても、その全額が課税仕入れになると案内しています。
また同ページには、関連するものとして「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問107-3として「派遣社員等や内定者等へ支払った出張旅費等の仕入税額控除」が挙げられています(出典:国税庁 No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い/令和7年4月1日現在法令等)。派遣スタッフへの支払いについて、専用の項目が用意されているということです。
実際の処理は前提条件によって変わるため、顧問税理士と国税庁のQ&Aで確認してください。ここでお伝えしたいのは、派遣スタッフに関わる支払いは、自社の従業員とは別に整理が必要になる場面があるという点です。
スタッフ本人が立て替えた交通費を後から精算する運用と、会社のカードで交通費を直接支払う運用では、記録として残る書類が変わります。運用を混在させると月末の処理が煩雑になるため、どちらかに統一しておくことをおすすめします。
スタッフから提出される交通費の領収書は、月ごとにファイルへまとめておくと月末の確認がしやすくなります。
許可制の事業であるという前提
労働者派遣事業は、厚生労働省の所管する制度のもとで運営されており、事業を行うには許可が必要です。関係する法令・指針・疑義応答集などは厚生労働省のサイトにまとめられています(出典:厚生労働省 労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等/記事執筆時点)。
許可の基準には資産に関する要件が含まれていますが、今回、厚生労働省のウェブページ上で具体的な数値を直接確認することができませんでした。そのため、この記事では金額の基準は記載しません。数値については厚生労働省の告示や業務取扱要領、または都道府県労働局にご確認ください。
なお、この許可の基準とカード会社の審査基準はまったく別の枠組みです。許可を得ていることがカードの審査に有利に働く、といった関係を示す公式情報は確認できませんでした。
派遣事業に関わる法令や実務の全体像は、人材派遣業の解説書で一度整理しておくと、社内規程づくりにも役立ちます。

カードを選ぶときの確認事項
人材派遣業の場合、優先度が高いのは利用可能枠、締め日と支払日の位置、追加カードの発行枚数、そして会計ソフトとの連携です。年会費の安さよりも、枠が足りるかどうかのほうが事業への影響は大きくなります。
三井住友カード ビジネスオーナーズは公式サイトで、お申し込み対象を「満18歳以上(高校生は除く)の法人代表者、個人事業主(副業、フリーランスを含む)の方」と案内し、年会費は本会員・パートナー会員ともに永年無料、パートナーカードは18枚まで申し込めると記載しています(出典:三井住友カード ビジネスオーナーズ/同ページ内に2026年5月26日時点との注記あり)。追加カードの枚数は、部門ごとにカードを配る運用を考えるときの判断材料になります。
よくある質問
Q1. 派遣スタッフの給与をカードで支払うことはできますか
給与はカードで支払う性質の支出ではありません。カードは給与以外の支出をずらすことで、給与の支払日に手元の現金を残すという形で活かすことになります。
Q2. 資金繰りが厳しいときにカードのキャッシングを使ってよいですか
キャッシングは利用条件や手数料の負担が発生します。運転資金の手当てとしては、金融機関への相談を含めて検討すべき場面です。カードのキャッシングについては法人カードでキャッシングはできるのかで整理しています。
Q3. 求人広告費をカードにまとめるメリットは何ですか
支払いのタイミングを締め日以降にずらせることと、明細が媒体ごとに残ることです。募集にかけた費用と採用できた人数を突き合わせやすくなります。
Q4. 利用可能枠はどのくらいを目安にすればよいですか
いちばん出稿が多い月の広告費に、システム利用料などの固定費を足した金額が起点になります。増員を計画しているなら、その分も見込んでおくと不足しにくくなります。
Q5. 社会保険料はカードで払えますか
納付方法は制度で定められた範囲に従うことになります。カード決済に対応しているかどうかは、納付先の案内をご確認ください。税金の納付方法については法人カードで税金を納付する方法で整理しています。
Q6. スタッフごとにカードを発行することはできますか
追加カードの発行枚数はカードによって異なります。ただし派遣スタッフは自社の従業員とは立場が異なるため、誰に持たせるかは社内の規程を整理したうえで判断する必要があります。
まとめ
人材派遣業でカードを考えるときは、まず前提を押さえるところから始まります。給与の支払いは期日が決まっていて動かせず、クライアントからの入金はその後に来る。この構造がある以上、資金繰りのいちばん重い部分にカードは直接効きません。
そのうえで、給与以外の支出をカードに寄せて、口座から現金が出ていくタイミングを後ろにずらす。給与の支払日に手元に残る現金を増やすことが、派遣業におけるカードの実質的な役割です。求人広告費のように事業拡大時にまとまって出る支出があるため、利用可能枠は今の規模ではなく、伸ばしたときの規模で見積もっておくと安心です。年会費・還元率・利用可能枠は改定されることがあるため、申し込みの前に各社の公式サイトで最新の条件をご確認ください。

